今回は、「甘いもの」とパーキンソン病の関係について、最新の論文をもとにお話ししていきたいと思います。
パーキンソン病の患者さんの中には、「チョコレートがやめられない」「ケーキが無性に食べたくなる」という方が少なくありません。実はこれ、単なる嗜好の問題ではなく、脳の働きと関係しているかもしれない、という研究報告が出ています。
この記事では、2022年に発表された論文「Parkinson’s Disease and Sugar Intake—Reasons for and Consequences of a Still Unclear Craving」をもとに、甘いものへの欲求の理由や、糖の摂りすぎがもたらす影響について、理学療法士としての視点も交えながら解説していきますね。
「甘いものが食べたくて仕方がない」その理由
パーキンソン病の患者さんの中には、発症の前後から急に甘いものを強く欲するようになった、という方がいます。これは、「自己治療的な行動(self-medication)」の可能性があるのだと、論文では指摘されています。
どういうことかというと、糖質を摂ると、血糖値が上がり、それに伴ってインスリンというホルモンが分泌されます。このインスリンが、脳内のドパミン放出に影響を与えると考えられているのです。

「ドパミンが減ることで起こる症状に対して、甘いもので脳が『応急処置』をしているとしたら、体はすごいですよね。でも、ずっと続けていいのかはまた別の話なんです」
ドパミンは、運動機能だけでなく、「やる気」や「快感」に関わる神経伝達物質です。甘いものを食べることで、脳が一時的に「気持ちよさ」を感じたり、動きやすくなったりする可能性があるのです。
糖の摂りすぎは問題も…
糖をとればドパミンが出る→少し動ける、気分がましになる→また糖をとる…というサイクルができると、一見いいように思えますよね。でも、ここには落とし穴があります。
長期間にわたって、たくさんの糖質をとり続けると、「インスリン抵抗性」といって、体がインスリンに反応しづらくなってしまいます。これが進むと、「2型糖尿病」になるリスクも高まります。
そして、インスリン抵抗性や糖尿病は、パーキンソン病の神経変性の進行を促進する可能性があると、研究では指摘されています。



「短期的には体調が良くなった気がする。でも長い目で見ると、病状が進みやすくなるという矛盾があるんですよね。難しい問題です」
特に、加工食品に多く含まれる「果糖(フルクトース)」は、インスリン抵抗性を引き起こしやすいとされ、甘いジュースやお菓子に多く含まれているため、注意が必要です。
🧠糖尿病とパーキンソン病には共通点もある?
意外なことに、糖尿病とパーキンソン病には「共通の遺伝的背景」がある可能性も指摘されています。たとえば、免疫系の遺伝子(HLA遺伝子)や、アルツハイマー病でも関係しているTauタンパクの遺伝子に関係する変異が、両疾患に共通して見られることがあるのだそうです。
また、糖尿病がある人は、パーキンソン病を発症しやすくなるという報告も複数あります(ただし、すべての研究が一致しているわけではありません)。
このような背景から、血糖コントロールと神経変性の進行には、何らかの関連があると考えられています。
💊糖尿病の薬がパーキンソン病にも効く?
実は、ある種の糖尿病の薬が、パーキンソン病のリスクを下げたり、進行を遅らせたりする可能性が示唆されています。
たとえば、以下の薬が注目されています。
• DPP-4阻害薬
• GLP-1受容体作動薬(例:セマグルチドなど)
• メトホルミン
• グリタゾン系
動物実験では、これらの薬がドパミン神経を守ったり、炎症を抑えたり、酸化ストレスを減らすといった効果が確認されています。人に対する効果も少しずつ報告され始めており、今後に期待が寄せられています。



「自費リハビリだけでなく、薬や食事の見直しも“生活全体を整える”という理学療法の一部。多職種での連携が大切です」
「脳のごほうびシステム」と糖
もう一つ注目したいのは、「脳の報酬系」と呼ばれる仕組みです。私たちは、うれしいことがあるとドパミンが出ます。そして「またやりたい」と思うのが報酬系の働きです。
パーキンソン病ではこの報酬系の働きも低下するため、気分が落ち込みやすくなったり、うつ症状が出やすくなります。
研究によると、パーキンソン病でうつ症状がある方は、より多くの甘い物を摂っている傾向があるそうです。これは、ドパミンを補おうとする「ごほうび欲求」の表れともいえるでしょう。
では、どうすればいいの?
甘いものが悪者か?と言われると、決してそうではありません。問題は「摂りすぎ」や「習慣化」です。
実際に、論文では以下のような対策が勧められています。
• 低GI食品(血糖値の上昇がゆるやかな食品)を選ぶ
• ビタミンやポリフェノールが豊富な食品をとる
• 地中海式食事(野菜・魚・オリーブオイル中心)がおすすめ
• 糖尿病のスクリーニング検査を定期的に受ける
• 管理栄養士や理学療法士によるサポートを受ける
理学療法の現場でも、ただ運動を指導するだけでなく、こうした「食事」や「ライフスタイル」の支援を行うことで、全体的な健康を保ちやすくなると考えられています。



「自費リハビリでは、時間をしっかり使える分、こういった生活指導や、糖と運動の関係なども丁寧に伝えています」
まとめ:甘いものと、うまくつきあう
パーキンソン病の方が甘いものを欲するのは、単なる「甘党」だからではないかもしれません。脳の報酬系やドパミン不足、インスリンとの関係など、さまざまな仕組みが関わっています。
ただし、摂りすぎることでインスリン抵抗性が進み、結果的にパーキンソン病の進行に影響を与える可能性もあるため、注意が必要です。
食事の選び方やタイミング、他の病気との関係なども含めて、理学療法士や医師、栄養士と一緒に「無理なく・楽しく」コントロールしていくことが大切です。
「甘いものを減らしたいけど、やめられない…」
「体の調子と気分を両方整えたい」
そんな方は、ぜひ自費リハビリや専門職との連携サポートを活用してください。食と運動の両方から、あなたの生活を支えることができます。
参考論文
Haas, J., Berg, D., Bosy-Westphal, A., & Schaeffer, E. (2022). Parkinson’s Disease and Sugar Intake—Reasons for and Consequences of a Still Unclear Craving. Nutrients, 14(15), 3240.
URL:https://www.mdpi.com/2072-6643/14/15/3240
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