
今回は、パーキンソン病とCOVID-19の関係について、最新の研究結果をご紹介したいと思います。
パーキンソン病をお持ちの方にとって、
「新型コロナウイルス(COVID-19)への感染は、単なる風邪や肺炎以上の影響をもたらすことがあるのではないか。」
そんな不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
実は、これまでCOVID-19がパーキンソン病のその後の経過にどう影響するのか、長期的な研究はほとんどありませんでした。
そんな中、ついにアメリカのアルバート・アインシュタイン医科大学の研究チームが、大規模な長期間の追跡調査を行った結果を「European Journal of Neurology」という医学雑誌に発表しました。
この研究では、COVID-19に感染したパーキンソン病患者と、感染しなかった患者を比較し、その後の死亡率や心臓・肺のトラブル、疲労感、転倒、薬の量の変化など、さまざまな要素を3年半にわたって追跡しています。

こういった長期追跡の研究は、リハビリを進める上で非常に貴重なデータになります。見えにくいリスクを予測し、早めに対応するための参考になります。
研究内容の詳細
この研究では、2016年から2023年にかけて、ニューヨーク州ブロンクスにある病院グループ「Montefiore Health System」で診療を受けていた3,512人のパーキンソン病患者を対象にしています。
その中から、COVID-19の検査で陽性だった293人と、陰性で感染歴がなかった1,649人を比較対象とし、最大で3.5年間にわたる長期の経過を調査しました。
比較した内容は以下のように多岐にわたります。
◾️比較した内容
• 死亡率
• 心臓発作や脳卒中といった大きな心血管系のトラブル
• 呼吸困難
• 慢性的な疲労感
• 転倒
• レボドパの投与量の変化



対象人数が多く、長期的に追跡されている点がすばらしいですね。
“長い期間での変化”を定量的に捉えてくれていますね。
感染した人としなかった人でどんな違いがあったのか?
まずわかったことは、COVID-19に感染した人たちは、元々の持病(高血圧や糖尿病、心臓病など)が多い傾向がありました。これは、もともと免疫力が弱かったり、身体的ストレスへの耐性が低かったりすることと関係しているかもしれません。
しかし、年齢や性別には大きな差はありませんでした。
人種的には、COVID-19にかかった人は「ヒスパニック系」である割合が高く、白人の割合は少なかったとのことです。
一方、アジア系の割合は全体としてかなり低く、感染した人・していない人で差はほとんど見られませんでした。
つまり、この研究対象となったニューヨークの医療圏においては、日本人を含むアジア系の人たちにおけるCOVID-19感染率に人種的なバイアスは確認されなかったということになります。
ただし、今回の調査対象はニューヨークであった、という地域特性も影響していると思われます。
コロナに感染するとあらゆるリスクが上昇する!?
本研究で明らかになった最も大きなポイントは、COVID-19に感染したパーキンソン病患者は、感染しなかった人と比べて明らかに多くのリスクを抱えるということです。
以下に、リスクが統計的に有意に高かった項目をまとめます。
項目 | リスク上昇率 |
---|---|
死亡率 | 1.58倍 |
心血管系のイベント | 1.72倍 |
呼吸困難 | 1.44倍 |
慢性疲労 | 1.49倍 |
転倒 | 1.39倍 |
感染してから3ヶ月以内に死亡率が一気に上昇し、その後も高い水準が続いていたことがグラフで示されていました。



感染のピーク後も影響が持続するというのは、身体機能や回復力の低下が長引くことを示しています。早期の理学療法介入が大切ですね。
薬も増える?レボドパ投与量の変化
もうひとつ見逃せないのは、感染後にパーキンソン病治療薬(レボドパ)の量が増えていたという点です。
• 感染前のレボドパ換算量:687mg/日
• 感染後のレボドパ換算量:727mg/日(p < 0.001)
つまり、COVID-19の感染によって、パーキンソン病の症状が悪化し、薬の量を増やさざるを得なかったということです。
また、男性はその後少しずつ薬の量が減少する傾向がありましたが、女性では変化がありませんでした。



薬の量が増えるというのは、運動症状が悪化した可能性が高いです。理学療法士の目から見れば、感染後は特に動作観察と運動指導が重要だと考えています。
コロナ感染後に悪化してしまう原因
この研究では、COVID-19がパーキンソン病を悪化させる理由として、以下のような点が挙げられています。
• ウイルスによる神経系の炎症
• ドパミンを作る神経細胞へのダメージ
• 酸化ストレスの増加
• α-シヌクレイン(パーキンソン病に関わるタンパク質)の凝集が促進される
また、社会的な要因として、
• 外出の自粛やリハビリの中断
• 孤独感や不安によるストレス
• 運動不足や不規則な生活
などといった要素も、症状の悪化に拍車をかけている可能性があると述べられています。



身体的な影響だけでなく、“生活そのものが病気を悪化させる”というのは、リハビリの現場では本当によく見られる現象です。
コロナ感染後のリハビリは非常に重要です。
理学療法・リハビリでできること
このような研究結果をふまえると、パーキンソン病患者さんにとって感染予防とともに、早期からのリハビリ継続が極めて重要であることがわかります。
たとえば、
• 疲労しやすい方へ持久力アップ運動
• 呼吸困難に対応した胸郭や呼吸筋へのアプローチ
• 転倒予防のためのバランス訓練と環境面の調整
• 精神的なサポートも含めた多職種連携による介入
などが求められると考えます。
また、感染後に薬の量が増えた場合には、副作用への対応や運動中のオンオフを考慮したプログラム作成など、より個別化されたリハビリプログラムが必要となってきます。
コロナ感染した後は積極的にリハビリをしよう
今回の研究は、「コロナにかかったら終わり」ではなく、コロナにかかった後の生活こそがリハビリの正念場であることを教えてくれました。
パーキンソン病は「進行性の病気」と言われていますが、どれだけ進行を遅らせることができるかが、いつまでも元気で過ごすための人生の質に影響を及ぼします。
そしてそのためには、
• 感染しないための予防
• 感染した後のフォローアップ
• 継続的なリハビリを実践する
• 精神面のケア
など、これらをトータルでサポートすることが必要です。



大切なのは、“コロナ感染が終わっても終わりではない”という視点です。感染後のパーキンソン病リハビリは“再出発のリハビリ”とも言えるかもしれません。
参考文献
Hadidchi R, et al. Impact of COVID-19 on long-term outcomes in Parkinson’s disease. Eur J Neurol. 2025;32:e70013.
https://doi.org/10.1111/ene.70013
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