
こんにちは。
私はパーキンソン病を専門にリハビリを提供している理学療法士、白石哲也と申します。
日本理学療法士協会が認定する「神経筋障害 認定理学療法士」として、日々多くのパーキンソン病の方々と向き合っています。
みなさんも「パーキンソン病」に関する情報収集の一つとして、SNSをご覧になっている方は多いかと思います。
先日、私がSNSを見ていた時にたまたまこういった発信を見つけてしまいました。
「パーキンソン病は、ドーパミンが脊髄を通って悪さをする病気だ」
ある「治療家」と名乗る方がこのような発言をしていました。
※「治療家」というものに資格は特に必要ありませんので、どなたでも名乗ることができます
この言葉、一見それらしく聞こえるかもしれませんが、実は医学的にはまったく正しくありません。
今回はこの誤解について、専門的な立場から丁寧に、そしてできるだけわかりやすく解説していきますね。
パーキンソン病の原因は「ドーパミンの不足」
パーキンソン病とは、脳の中にある「黒質(こくしつ)」という場所の神経細胞が減少し、ドーパミンが十分に作れなくなることによって起こる病気です。
ドーパミンは、私たちの動きをスムーズに調整する「神経伝達物質」。いわば脳の中の“動きの指令をスムーズにする潤滑油”のような役割です。
ドーパミンが不足すると、体は命令通りに動きづらくなります。歩くときに足が出にくくなったり、震えや姿勢の崩れが出てしまうのです。

「ドーパミンが悪さをするんじゃなくて、足りなくなることが問題なんです。“必要な油がなくなって機械の動きが悪くなる”イメージが近いですね。」
脊髄とはどんな働きをしているの?
では、「脊髄」とはどんな役割をしているのでしょうか?
脊髄は、脳から体への「動け!」という命令や、体から脳への「痛い!」「触った!」という感覚を運ぶ、神経の通り道なんです。
背骨の中に守られるように存在し、体と脳をつなぐ重要な高速道路のような役割を果たしています。
ただしここで大切なのは、脊髄は命令を通すだけの“通り道”であり、ドーパミンそのものが流れているわけではないということです。



「脊髄は“電線”のようなもの。電気(=運動の指令)が流れる道であって、ドーパミンという“物質”が通ってるわけじゃありませんよ。」
ドーパミンは脳の中だけで働く
ドーパミンが実際に働くのは、脳の中の「黒質」から「線条体」というエリアまでです。
この中で、体をどう動かすかを計画し、タイミングやバランス、リズムを整えています。
つまり、ドーパミンは脳の中で完結する神経伝達物質で、脊髄を通って体に送られるものではありません。



「ドーパミンは“司令室の中の会話”で使われるイメージ。外(体)には出ていきません。」
なぜ「脊髄を通って悪さをする」と誤解されるのか
おそらく、「脳→脊髄→体」という運動の流れの中で、脊髄が絡んでいる=そこに原因があるのでは?という誤解があるのだと思います。
でも、もう一度整理するとこうなります。
1. 脳で「動け!」という命令が作られる(ここにドーパミンが必要)
2. 命令が脊髄を通って筋肉に伝わる
3. 筋肉が動く
パーキンソン病では、そもそも脳の中で命令を作る力が落ちている(=ドーパミンが足りない)ので、その後の脊髄にも命令がうまく届かない状態になります。



「脊髄は“伝える役目”。でも、肝心の命令がそもそも作れていなければ、何も伝えられませんよね。」
ドーパミンは「悪者」じゃない。むしろ、味方です
「ドーパミンが悪さをしている」という表現は、本来の意味と正反対です。
ドーパミンは、私たちの動きをスムーズにしてくれる味方の物質です。
足りなくなることで初めて問題が起こるのであって、ドーパミンそのものが「悪さをしている」というのはまったくの誤解です。



「“消防車の水が少なくて火が消せない”のに、“水が悪さしてる”って言ってるようなものですね。」
怪しい情報に振り回されず、正しい知識を持とう
SNSやYouTubeなどでは、医療に関する話題が手軽に発信されていますが、その中には科学的根拠のない情報や極端な表現が混じっています。
「○○が原因」「□□を食べれば治る」といった言葉は、希望を持たせるようでいて、正確さに欠けることが多いです。医療の専門家でこういった表現を使う人はいません。
不安なときこそ、医師や理学療法士などの専門職に相談することが、安心して生活を続けていくための一番の近道です。



「どんなに情報があふれていても、“一緒に考えてくれる専門家”がいれば、惑わされずにすみますよ。」
本当に困っているのは「ドーパミン不足」
最後に、もう一度整理します。
• パーキンソン病は「ドーパミンが脊髄を通って悪さをする病気」ではありません。
• 本当は、「ドーパミンが足りなくなり、脳がうまく動けという命令を出せなくなる病気」です。
• 脊髄はその命令を伝える“通り道”にすぎず、原因ではありません。
• ドーパミンは、むしろ動きを支えてくれる味方の物質です。
パーキンソン病と向き合うには、正しい情報と冷静な判断がとても大切です。
そしてそれを支えているのが、私たち医療・リハビリの専門家です。
怪しい情報に不安になるのは当然のこと。でも、必要なのは恐れではなく、根拠のある知識と安心できるサポートです。
どうか、気になる情報を見たときは、医療の専門家に相談してくださいね。
そして、これからも一緒に、無理なく、前向きに生活を整えていきましょう。
神経筋障害 認定理学療法士
白石哲也
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