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パーキンソン病の姿勢改善に「バランスチェア」は有効?理学療法士が解説

今回は、パーキンソン病の方に向けて「姿勢を保ちやすくする椅子」として話題になっている、「バランスチェア」について、最新の研究と理学療法士である私の臨床経験を交えてお話したいと思います。

単に椅子の紹介をするのではなく、「なぜ姿勢が崩れやすくなるのか」「椅子の構造が体にどう影響するのか」といった点まで、詳しく解説していきますね。

本記事の構成

パーキンソン病と姿勢の関係

パーキンソン病では、脳内のドーパミン不足により、動作全般がゆっくりになり、筋肉が硬くなってしまいます。これにより、立位や座位の姿勢が前かがみになりやすくなっていきます。

さらに病気が進んでいくと、重心位置の変化や姿勢調整機能の低下により、自然に体を起こすことが難しくなる傾向があると言われております。

この「姿勢が前かがみになる」という変化は、見た目の問題だけでなく、以下のような様々な日常生活上の影響を及ぼしてしまいます。

呼吸機能の低下

前かがみ姿勢になると胸郭や横隔膜の動きが制限され、肺が十分に膨らますことがしにくくなります。
その結果、呼吸が浅くなり、会話や運動で息切れしやすくなります。

嚥下機能の低下

頭が前に出ることで喉の通り道が狭くなり、食べ物や飲み物が飲み込みにくくなってしまいます。
これにより誤嚥のリスクが高まり、飲み込みに時間がかかります。

視野の制限

視線が下向き傾向になり、上方や遠くの障害物に気づきにくくなってしまいます。
外出時や歩行時に危険を見逃しやすく、転倒の危険性が上がります。

腰痛や背部痛の悪化

腰椎の自然なカーブが失われ、背中や腰の筋肉に負担がかかります。
筋疲労や慢性的な腰背部の痛みが起こりやすくなります。

白石

前かがみ姿勢になることで様々な不調をきたす恐れがあるので早めの対策が重要です。

バランスチェアの特徴と構造

バランスチェア(商品名:バランスイージー)は、座面が前傾し、膝または脛を支えるパッドが付いた椅子です。
この椅子の最大の特徴は、骨盤を自然に前傾させる構造にあります。

座面の傾き

通常の椅子は水平ですが、バランスチェアは約20度前傾しています。
この傾きにより骨盤が自然に前傾し、腰椎のカーブが保たれやすくなります。

膝・すねパッド

膝やすねを支えることで前滑りを防ぎ、座面への圧力を分散します。
体重の一部が下肢に分配され、腰や臀部の負担を軽減します。

背もたれなし

背もたれをなくすことで、腹筋や背筋など体幹筋が姿勢保持に積極的に関与します。
長時間座ることで自然に姿勢保持筋が鍛えられる構造です。

この構造により、股関節角度が広がり(通常90度→100〜110度)、骨盤の後傾が抑えられ、綺麗な姿勢(腰椎前弯位)が維持されます。

腰椎前弯と姿勢保持の関係

腰椎前弯位は、腰の部分の自然なカーブで、体重を効率よく支えるために重要な役割を果たします。

この前弯が失われると、腰や背中の筋肉に負担が集中し、疲れやすく、痛みが出やすい状態になります。

特にパーキンソン病では、筋緊張のバランスが崩れやすく、骨盤が後ろに傾き、腰椎前弯が減少する傾向があります。このため、姿勢保持のためには「骨盤の前傾を保つ工夫」が必要です。

科学的エビデンス①

フランスの研究チームは、慢性腰痛患者10名と健康な被験者10名を対象に、バランスチェアと通常椅子で座った際の腰椎前弯や骨盤傾斜をX線で測定しました。

座位姿勢は「背すじを伸ばした姿勢」と「背中を丸めた姿勢」の2種類で比較されました。

結果は以下の通りです。

• 通常椅子では、立位に比べ腰椎前弯が大きく減少(慢性腰痛患者:36%減、健康な方:51%減)
• バランスチェアでは、腰椎前弯の減少は15〜20%にとどまった
• 丸め姿勢でも、バランスチェアの方が前弯が保たれた

つまり、バランスチェアは、姿勢を崩しても腰のカーブを保ちやすいという結果でした 。

科学的エビデンス②

イギリスと南アフリカの共同研究では、慢性腰痛のある事務職女性54名を対象に、3週間の座位姿勢の介入試験を行いました。

介入グループは以下の3パターンでした

1. 通常椅子(高さ調整・足台あり)
2. バランスチェア
3. バランスボール

研究結果

• バランスチェアとバランスボールで腰痛が有意に減少
• ただし、一部の参加者は痛みが悪化
• 膝関節に問題がある人では膝部の不快感が増加

この結果から、「効果がある人もいれば、合わない人もいる」ということがわかりました。

白石

全ての方に効果があるとは言い切れませんが、パーキンソン病の方は長く座ると自然に丸まってしまいますが、それでも腰椎の前弯がある程度保たれるのは大きなメリットですね。

バランスチェアのメリット&デメリット

バランスチェアには、姿勢保持を助けたり腰への負担を軽減したりといった、日常生活や作業環境において有益な効果が期待できる点がいくつもあります。

特に、骨盤や背骨のアライメントを整える構造は、猫背の予防や腰痛対策を目的として開発された背景があります。
こうした特徴から、長時間のデスクワークや学習における姿勢改善のサポートツールとして注目されています。

バランスチェアのメリット

バランスチェアには以下のようなメリットがあると考えております。

1. 骨盤前傾を自然に促す

座面が前傾していることで、腰が自然に立ち、骨盤が後ろに倒れにくくなります。

その結果、意識せずとも背筋が伸びた姿勢を保ちやすくなり、猫背予防にもつながります。

2. 腰椎前弯を維持

腰の自然なカーブ(前弯)が保たれるため、腰椎や周囲の筋肉・靱帯にかかるストレスが減ります。

慢性的な腰痛や背部痛の軽減にも効果が期待されます。

3. 体幹筋の軽い活動を促す

背もたれがないため、座っている間も体幹筋群が姿勢保持に関与し続けます。
日常的に使うことで、姿勢保持筋の持久力や安定性が向上する可能性があります。

一方で、バランスチェアは一般的な椅子とは構造や使い方が異なるため、体への接触部位や負荷のかかり方に特有の注意点もあります。

適切な環境や使用方法を理解しないまま長時間使用すると、かえって体に負担をかけてしまうこともありますので、メリットとデメリットを両面から知っておくことが大切です。

バランスメリットのデメリット・注意点

1. 足底接地がない

足が床につかないため、立ち上がりや踏ん張りを必要とする動作には適していません。
特に高齢者やバランス能力が低下している方には安全面の配慮が必要です。

2. 膝・すねの圧迫

膝やすねに体重の一部がかかるため、関節疾患や皮膚が弱い方は痛みや発赤が出やすくなります。
長時間連続で使う場合は、こまめな休憩やパッドの調整が推奨されます。

3. 長時間使用で筋疲労

体幹筋が常に働くため、慣れないうちは腰や背中が張ったり、疲れを感じやすくなります。
最初は短時間から使用を始め、徐々に使用時間を延ばすことが望ましいです。

白石

“座っているだけで筋トレになる”と聞くと良さそうですが、疲労や姿勢の崩れにつながることもあります。時間管理が大切です。

パーキンソン病での活用方法

机上訓練の短時間使用

書字や工作、パズルなどの手先を使う訓練や上肢運動の際にバランスチェアを使うと、骨盤が立ちやすく背筋が伸びた状態を維持できます。
これにより、手先の操作性や集中力が向上しやすくなります。

通常椅子との併用

バランスチェアは長時間の連続使用で体幹や膝への負担が増えるため、適度に休憩を挟みながら、足底がしっかり接地できる一般的な椅子と組み合わせることが望ましいです。
これにより疲労や転倒リスクを減らせます。

足台の利用

足が床に届かない場合は、安定した足台を用いることで下肢の血流改善と姿勢の安定性を高められます。
特にパーキンソン病では下肢のむくみやバランス低下があるため、安全性の確保にもつながります。

クッション追加

膝やすねに体重がかかることで痛みや皮膚の圧迫が生じやすいため、やわらかいクッションやパッドカバーを追加すると快適性が向上します。
皮膚の弱い方や関節に不安のある方には特に有効です。

リハビリでの活用事例

私が臨床で見た例では、パーキンソン病の方が午前中の作業訓練にバランスチェアを使い、午後は通常の椅子に切り替えるという方法で、腰痛が軽減し、呼吸も楽になったケースがあります。

重要なのは「座りっぱなしを避け、ちょこちょこ姿勢を変える習慣」をつくることです。

まとめ

バランスチェアは、

• 腰椎前弯を保つ
• 姿勢を整えやすい
• 慢性腰痛改善の可能性あり

という利点がありますが、全員に適応になるわけではありません。

パーキンソン病の方の場合は、理学療法士と相談しながら短時間利用から始め、効果と負担を見極めることが重要だと思います。

参考文献

Vaucher M, et al. Effect of a kneeling chair on lumbar curvature in patients with low back pain and healthy controls: A pilot study. Ann Phys Rehabil Med. 2015;58(3):151–156.
https://doi.org/10.1016/j.rehab.2015.01.003

Bridger RS, et al. Palliative interventions for sedentary low back pain: the kneeling chair, the physiotherapy ball and conventional ergonomics compared. Proc Hum Factors Ergon Soc Annu Meet. 2000;44(23):5-87–5-90.
https://www.researchgate.net/publication/258245887

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