今回は、「パーキンソン病にリハビリは重要である」というテーマについて、少し掘り下げてお話ししていきたいと思います。
「リハビリが大切」。
これは、わざわざデータで示さなくても、直感的にわかる方も多いのではないでしょうか。
特にパーキンソン病という進行性の病気においては、運動機能を少しでも維持・向上させるためにリハビリが不可欠です。
ですが、「なぜ大切なのか?」「どう大切なのか?」というところまで、しっかり考えたことはありますか?
今回は、医療者向けに作られた「パーキンソン病診療ガイドライン」の内容も参考にしながら、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
まずはそもそも、「ガイドライン」って何?というところからお話ししましょう。
普段、私たち専門職は「ガイドライン」という言葉を当たり前のように使っています。
そもそもガイドラインってなに?
でも、患者さんやご家族にとっては、ちょっと誤解されがちな言葉かもしれません。
たとえば、「ガイドラインって、お医者さんたちが絶対に従わないといけないルールでしょ?」
──そんなふうに思っている方もいらっしゃるかもしれませんね。
でも実際は、ガイドラインというのは「必ず守らないといけない法律」ではありません。
医療の現場で治療方針を考えるときの参考資料、いわば“道しるべ”のようなものです。

ガイドラインは『こうすべき』と断定するものではなく、『こう考えるとよさそうだよ』という道しるべです
また、ガイドラインは医療者だけが使うものではなく、患者さん自身が知っておくことにも意味があります。
なぜなら、治療方針を決めるときには、医師だけでなく、患者さんと一緒に考えていく時代だからです。
だからこそ、今回のテーマである「パーキンソン病のリハビリテーション」についても、ガイドラインでどう書かれているのかを知っておくことはとても大切です。
パーキンソン病ガイドラインにおけるリハビリの位置づけ
さて、ここから本題です。
パーキンソン病診療ガイドライン(2018年版)では、リハビリテーションについて、きちんと章立てして解説されています 。
そこでは、次のようなことが書かれています。
• リハビリテーションは、薬物治療や手術治療と並ぶ、重要な治療手段である。
• 患者さん自身が積極的に参加できる治療法であり、意欲やモチベーションがリハビリの成果に影響する。
• さまざまな職種(医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理士、音楽療法士など)がチームで関わるべき。
• リハビリのエビデンス(効果に関する科学的根拠)は、運動療法・作業療法・言語訓練・音楽療法それぞれに存在する。



薬だけに頼らず、リハビリも積極的に使っていく。これが今のパーキンソン病治療のスタンダードなんです!
つまりリハビリは、単なるオマケ的なものではなく、治療の柱の一つと位置づけられているのですね。
どんなリハビリが有効なのか?
ガイドラインでは、リハビリの具体例についても詳しく書かれています。
たとえば運動療法では、
• ストレッチ
• バランス訓練
• 筋力トレーニング
• 自転車トレーニング
• 音楽に合わせたリズム歩行
• エアロビックトレーニング
などが推奨されています。
なかでも特に注目されているのは、「有酸素運動」と「高強度の筋力トレーニング」です。
なんと、高強度の筋トレを続けた人は、2年後も効果が持続していて、薬の量まで抑えられていたという研究報告もあるんですよ !



筋トレなんて大変そう…と思うかもしれませんが、実は“薬を減らす力”まで秘めているんです!
また、作業療法や言語聴覚療法、音楽療法もエビデンスが示されており、それぞれ次のような効果が期待できます。
• 作業療法:日常生活動作(ADL)の改善、家族の介護負担の軽減
• 言語療法:発声や飲み込み機能の改善(LSVT LOUD®の効果が長期持続)
• 音楽療法:リズム刺激による歩行改善、転倒予防、社会参加の促進
つまり、パーキンソン病に対するリハビリは単なる「運動」だけにとどまらず、生活の質全体を底上げしていく手段になっているんです。
「散歩=リハビリ」とは限らない
ここで一つ、現場でよく感じる“ズレ”についても触れておきましょう。
リハビリというと、「毎日散歩してます!」と胸を張る方がたくさんいらっしゃいます。
もちろん、散歩はとても良いことですし、身体を動かすきっかけとしては素晴らしいです。
ただし、「散歩だけで必要な運動量や負荷が足りているか?」と言われると、それはちょっと疑問です。



散歩も立派な運動ですが、“リハビリ”という視点で見ると、筋力やバランスにもう少しアプローチしたいですね。
特にパーキンソン病では、意識的に負荷をかけた運動(筋力トレーニングやバランス訓練)を取り入れることが、運動機能の維持に大きく関わってきます。
ですので、もし「今の運動量でいいのかな?」と少しでも不安に感じる方は、一度リハビリ専門の理学療法士などに相談してみて欲しいです。
早期からリハビリを始める意義
もう一つ大事なポイントとして、ガイドラインでは「早期からリハビリを始めたほうが良い」と明記されています。
たとえば、
• まだ症状が軽い段階であっても
• 日常生活にそれほど困っていない段階であっても
リハビリを取り入れることで、将来的な機能低下を予防し、生活の質を高く保ち続けることが期待できます。



「まだそんなに困ってないからリハビリはいいや」
と思った時こそ、始めどきなんですよ。
早めにスタートすることで、後々の生活に大きな違いが生まれます。
まとめ
ここまで、パーキンソン病におけるリハビリテーションの重要性についてお話してきました。
リハビリは、ただ症状を和らげるためだけではありません。
今後、できるだけ長く自分らしい生活を続けるために必要な投資だと私は考えています。
そして、そのリハビリも、「散歩だけ」「自己流だけ」ではなく、
エビデンスに基づいた適切な方法を選ぶことが大切です。
ぜひ一度、ご自身のリハビリ内容を振り返ってみてください。
そして、「これで本当に未来につながるリハビリができているか?」を考えるきっかけになればうれしいです。
困ったときには、ぜひ理学療法士などのリハビリ専門家に相談してみてくださいね!
参考文献
パーキンソン病診療ガイドライン2018(日本神経学会)
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson.html
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