パーキンソン病の方から、「最近、体の痛みが気になる」「痛みが出てから前より歩きにくくなった気がする」というお声をよくいただきます。
痛みと歩きにくさは、別々の悩みのようでいて、実はつながっているのかもしれません。2026年に理学療法の専門誌で報告された研究をもとに、パーキンソン病の痛みと身体機能の関係を、理学療法士の視点で解説したいと思います。
1. どんな研究?痛みと身体機能を調べた背景
今回ご紹介するのは、アメリカのリハビリ専門機関の研究チームが、パーキンソン病のある355名の記録を分析した研究です(Duncan、2026年)。
対象になったのは、比較的初期から中期のパーキンソン病があり、理学療法のプログラムで評価を受けた方々です。そのうち約3割(98名)に、体のどこかに痛みがありました。
研究チームは、「痛みのある人」と「痛みのない人」で、歩く力・バランス・立ち座りのしやすさといった身体機能に違いがあるかを比べました。
パーキンソン病というと、手足のふるえや動きにくさ(運動症状)が注目されがちです。けれど、痛みのように体の内側で起きる症状(非運動症状=運動以外の症状)も、生活の質に大きく関わります。臨床の現場でも、痛みを我慢しているうちに動くのがおっくうになり、活動量が少しずつ減っていく方は珍しくありません。
2. この研究でわかったこと
研究からは、次のことが見えてきました。
- 痛みのある人は、痛みのない人にくらべて、長く歩き続ける力(持久力)や歩く速さ、立ち座りの成績が低い傾向にあった
- とくに「脚(下肢)」の痛みは、痛みが強い人ほど、歩く力の低下が大きいという関係がみられた
- 一方で、体幹(背中や腰などの体の軸の部分)や腕の痛みの強さは、歩く力とのはっきりした関係はみられなかった
たとえば持久力の目安となる「6分間でどれだけ歩けるか」では、痛みのある人はない人より、距離にしておよそ100メートル分ほど短いという結果でした。数字だけ見ると大きく感じますが、これは「痛みのある人たちの平均的な傾向」であって、一人ひとりに必ず当てはまるわけではありません。
興味深いのは、バランスや転びやすさをみる検査では、痛みのある・なしではっきりした差が出なかったことです。今回の研究で痛みと関係していたのは、主に「歩く力」と「立ち座り」だった、という点は押さえておきたいところです。
3. なぜ痛みと歩きにくさがつながるのか
ここで大切な注意点があります。この研究は、ある一時点の記録をふり返って調べたもの(横断研究=ある時点の状態を切り取って比べる研究)なので、「痛みが歩きにくさの原因だ」とまでは言えません。あくまで「痛みと歩きにくさが一緒に起きやすい」という関係が見えた、という段階です。
そのうえで、この研究にはひとつ考えるヒントがありました。歩く力とはっきり結びついたのは「下肢の痛み」だけで、体幹や腕の痛みの強さは、歩く力と関係していなかったという点です。痛みならどこにあっても同じように歩行にひびきそうなものですが、結果はそうではありませんでした。この「部位による違い」を手がかりに、なぜ下肢の痛みだけが歩行と結びついたのかを、歩くという動作の中身に分けて考えてみます。
まず、歩行がどんな動きでできているかを整理します。歩行は「立脚期」と「遊脚期」という2つの局面のくり返しでできています。立脚期(りっきゃくき)とは、足が地面についていて体重を支えている局面のこと、遊脚期(ゆうきゃくき)とは、足が地面から離れて前へ振り出される局面のことです。片脚で体を支えることと、足を前へ振り出すことを、左右交互に、休みなく繰り返しているのが歩くという動作です。
このうち脚の痛みがまず影響しやすいのが「荷重」の場面です。荷重とは、片方の足に体重を受け止めさせることをいいます。歩いているあいだ、私たちは一歩ごとに片脚へ体重を預けています。脚に痛みがあると、その脚に体重をかけるのがつらくなり、痛い側へ体重を乗せる時間を無意識に短くしがちです。すると一歩が小さく、速さも控えめになり、歩く速さや長く歩き続ける力に響いてくるのかもしれません。
次が「支持」、つまり片脚で体を支えて安定させる場面です。歩行では、一瞬とはいえ片脚だけで全身を支えるタイミングが必ずあります。脚の痛みでこの片脚支持が不安定になると、体はより安全な歩き方(歩幅を狭くし、両脚がそろって地面についている時間を長くする方向)へと自然に調整します。これも、歩く速さや歩ける距離が伸びにくくなる方向にはたらくと考えられます。
そして「蹴り出し」です。蹴り出しとは、立脚期の終わりに、足の裏(とくにつま先側)で地面を後ろへ押して体を前に進める動きのことです。歩く推進力の多くは、この蹴り出しから生まれます。ふくらはぎや足首、足の裏に痛みがあると、しっかり踏ん張って地面を押すことがしづらくなり、一歩の推進力が落ちます。蹴り出しは歩行の「エンジン」にあたる部分なので、ここが痛みで弱まると、歩く速さや持久力に効いてくるのは想像しやすいところです。
臨床の歩き方の評価でも、脚に痛みのある方は、痛い側の一歩が小さくなっていたり、左右で体重の乗せ方が違っていたりすることをよく目にします。ご本人は「なんとなく歩きにくい」としか感じていなくても、動作を局面に分けて見ていくと、荷重や蹴り出しのどこかに、痛みをかばう動きが隠れていることが少なくありません。
では、体幹や腕の痛みの強さが歩く力と結びつかなかったのは、なぜでしょうか。ここは研究でも理由まではわかっておらず、推測になります。体重を支え、体を前へ運ぶ歩行の主役は、あくまで下肢です。体幹や腕の痛みは、姿勢や腕の振りには関わっても、荷重・支持・蹴り出しという歩行の土台そのものには、下肢ほど直接はひびかないのかもしれません。ただしこれは今回の結果からの推測にすぎず、はっきりした仕組みは今後の検討課題です。
もうひとつ見落とせないのが、痛みそのものが動く量を減らしてしまう面です。痛みがあると「動くのがこわい」「動くと痛いから控えよう」という気持ちがはたらき、自然と活動量が減っていきます。動かない時間が増えれば、筋力や持久力は少しずつ落ちていきます。世田谷のスタジオでも、全国のオンラインの会員さんでも、痛みをきっかけに運動から遠ざかってしまった、というお話は少なくありません。脚の痛みは、歩く動作を直接じゃまするだけでなく、こうして間接的にも歩く力に影響しているのかもしれません。
4. 日常で活かす視点
では、日々の生活でどう受け止めればよいでしょうか。理学療法士として、次の視点をおすすめします。
- 痛みを「年のせい」「仕方ない」と我慢しきらず、いつ・どこが・どのくらい痛いかを書きとめておく
- とくに下肢の痛みは歩きにくさと関係している可能性があるので、早めに主治医や理学療法士に相談する
- 痛みがあるときは無理に動かさず、痛みの少ない動き・強さから始める
- 調子のよい範囲で、歩く・立ち座りするといった「日常の動き」を止めないようにする
痛みは、体からの大切なサインです。今回の研究は「痛みを取れば歩けるようになる」ことを示したわけではありませんが、「痛みと歩きにくさは、セットで見ていく価値がある」ことを教えてくれます。
なお、パーキンソン病は症状の重さや時期によって、合う運動・合わない運動があります。新しく痛みが出たときや、痛み・歩きにくさの変化が続くときは、自己判断で運動を増やしたり減らしたりせず、まず主治医にご相談ください。
5. まとめ
- パーキンソン病のある355名の研究で、体の痛みは歩く力・持久力・立ち座りの低さと関連していた
- とくに下肢の痛みは、強いほど歩く力の低下が大きいという関係がみられた
- 体幹・腕の痛みの強さや、バランスの検査とは、はっきりした関係はみられなかった
- ただし原因と結果までは言えない段階。痛みは記録し、変化が続けば主治医・理学療法士に相談を
痛みと歩きにくさは、どちらも「パーキンソン病だから仕方ない」とあきらめる必要はありません。痛みと上手につきあいながら、自分に合った運動を続けていくことが、これからの歩く力を守る一歩になります。
リハトレスタジオ世田谷では、パーキンソン病や神経難病のある方に向けて、痛みや歩きにくさの状態を確認しながら、お一人おひとりに合わせた運動プログラムをご提案しています。世田谷近郊での対面はもちろん、全国どこからでも受けられるオンラインパーソナルもご用意しています。気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
執筆・監修:白石哲也(神経筋障害認定理学療法士/リハトレスタジオ世田谷)
本記事は情報提供を目的としたもので、個別の診断や治療方針を示すものではありません。症状や治療についてのご判断は、主治医にご相談ください。



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